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名古屋地方裁判所 昭和29年(ワ)814号 判決

主文

被告は原告に対し金八万六千七十円五十一銭並びに内金四万七千九百六十三円六十銭に対する昭和二十九年一月一日より完済に至るまで金百円につき日歩金五銭の割合により金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り、原告において金二万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告指定代理人は、被告は原告に対し金八万六千八十四円十九銭並びに内金四万七千九百六十三円六十銭に対する昭和二十九年一月一日以降完済に至るまで日歩金五銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求めその請求の原因として訴外配炭公団は、被告に対し孰れもコークス旭大塊一号を売買代金は荷渡しと同時に支払うこと、もしその支払を怠つたときは該代金に対する荷渡しの日の翌日から代金完済に至るまで金百円につき日歩金五銭の割合により遅延損害金を支払うべき約定のもとに、昭和二十四年七月二十三日、四千七百五十噸を代金二万九千九百七十七円二十五銭で、同月二十五日、二千八百五十噸を代金一万七千九百八十六円三十五銭で夫々売渡し、孰れも、即日これを引渡したものであるが、被告は前叙代金の支払いを全く怠つていたところ、訴外配炭公団は昭和二十六年三月一日、原告に対し被告に対する前叙売却代金及びこれに対する約定遅延損害金各債権を譲渡し、同日頃被告に対し右債権譲渡の旨を通知したので原告は現在、被告に対し前叙売却代金及び約定遅延損害金債権を有している。

そこで原告は被告に対する前叙債権中売却代金合計金四万七千九百六十三円及びこれに対する孰れも前叙コークス引渡しの日の翌日以後たる昭和二十四年八月二十六日以降右代金完済に至るまで金百円につき日歩金五銭の割合による約定遅延損害金の支払いを求めるものであるが、同約定遅延損害金額中、前同日以降昭和二十八年十二月三十一日までの期間の分は金三万八千百二十円五十九銭と算定されるので、原告は被告に対し前記コークス売却代金合計額に、右期間中に生じたる前記算定約定遅延損害金額を加算した金八万六千八十四円十九銭並びに右売却代金合計額金四万七千九百六十三円六十銭に対する昭和二十九年一月一日以降これが完済に至るまで金百円につき日歩金五銭の割合により約定遅延損害金の支払いを求めるため本訴請求に及んだと陳述し、被告の弁済の抗弁を否認し、訴外配炭公団としては前叙コークス売却に当つて、その約旨通り、代金の支払を受けると同時に荷渡しをすることが好しいことではあつたが、同公団は事実上当時の取引中その多くを荷渡しの後に該代金支払いを受取るという取扱いを受取るという取扱いにしており、本件もその例外ではないと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として原告主張事実中、被告が訴外配炭公団から原告主張のコークスを原告主張の代金で買受けたことは認めるがその余の事実はこれを否認すると述べ、抗弁として被告は訴外配炭公団からのコークス配給受領に際しては常に現金支払いをしていたのであり一方同公団としては現金決済の取扱いをするのが当然であるから、本件コークスの買受けに際しても、それぞれ荷渡しを受けると同時に代金全額を支払つたものであると陳述した。

(立証省略)

理由

訴外配炭公団が被告に対し昭和二十四年七月二十三日コークス旭大塊一号、四千七百五十噸を代金二万九千九百七十七円二十五銭で、同月二十五日右同品二千八百五十噸を代金一万七千九百八十六円三十五銭で売却し、孰れも即時被告に前叙商品を引渡したことは当事者間に争がない。

被告は右商品の引渡を受けるのと同時にその代金を支払つたと主張し証人岡本八郎の証言並被告本人の供述はこれに副うようであるが証人村田弥一郎同伊藤直一の証言によつて明かな本件取引当時右配炭公団においては代金引換でなくとも買受人に対しコークスの荷渡をする取扱が相当広汎に行われていた事実に徴し右岡本証人、被告本人の各供述はにわかに信用し難く他に被告主張を肯認するに足る証拠はない。よつて訴外配炭公団は被告に対し原告主張の前叙コークス売掛代金債権を有していたものと認めることができる。次に原告主張の遅延損害金について考察してみると、昭和二十三年六月二十三日付物価庁告示第三四九号によると配炭公団に対し、石炭等の買受人が所定支払期日に石炭代を支払わない場合は買主は日歩金五銭の遅延金利を支払うものとする旨規定していることは当裁判所に顕著であるから特段の事情なき限り当事者はこれによる意思があつたものと認めるのが相当である。したがつて本件においても代金の支払日であること当事者間に争のないコークスの荷渡しの日に該代金の支払がなかつたこと右認定の如くなる以上、買主たる被告は訴外配炭公団に対し荷渡しを受けた日の翌日から右告示に従い日歩金五銭の割合による約定遅延損害金債務を負担したものと認むべきである。而して成立に争のない甲第一号証の記載によれば、右公団は昭和二十六年三月一日原告に対し前叙コークス代金債権及び之に対する前述の割合による遅延損害金債権を含むその他の延滞利息債権を譲渡し、同日頃その旨を被告に通知したものであることが認められるから、同日より原告は被告に対し原告主張に係る本件代金債権及び之に対する遅延損害金の債権者となつたものである。従つて原告の被告に対する右売掛代金及び之に対する履行期以後であることの明らかな昭和二十四年八月二十六日以降右代金完済に至るまで金百円につき日歩金五銭の割合による約定遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は正当とすべきところ、右昭和二十四年八月二十六日以降昭和二十八年十二月三十一日までの期間の前叙遅延損害金額は金三万八千百六円九十一銭と算定されるので原告主張の同期間の遅延損害金額である金三万八千百二十円五十九銭中右を超ゆる部分についてはこれを失当として売却するが他は凡て理由あるものとして認容すべく仮執行の宣言につき民事訴訟法第百九十六条、訴訟費用の負担につき同法第九十二条但書、第八十九条を適用して主文の通り判決する。(昭和三五年八月二五日名古屋地方裁判所)

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